次期海上幕僚長予想

 次期海上幕僚長として私が予想するのは、伊藤弘海将(32期)である。このように予想する理由は、①期別(年齢)、②略歴、③印象である。

 ①に関して:次期海上幕僚長を予想するにあたって考慮しなければならないのは次期統合幕僚長である。統合幕僚長に関しては、公平性の観点から陸→空→海というローテーションが組まれているので、次は空ということになる。統合幕僚長が来年交代するタイミングを迎えることを考えると、来年に現在の井筒航空幕僚長(30期)が統合幕僚長となる。また、現任の山村海上幕僚長の就任日が現任の統合幕僚長の就任日と同日であることを考慮すると、退任のタイミングも同時と考えて良い。このことと、統合幕僚長海上幕僚長が通常2~3年務めることを考えると、次期海上幕僚長は次々期統合幕僚長ということになる。したがって、32期~33期組から選ばれることとなるが、佐官以下の定年延長に伴い34期1選抜が未だに海将となっていないことを考慮すると、33期から海幕長を選抜するのは難しいと考えられる。よって32期から選抜するのが組織にとって合理的であるというわけである。

 ②に関して:海上自衛隊では人事・防衛・教育をやることがバランスのとれた配置(『統合幕僚長(河野克俊著)』より)らしい。過去の海幕長の略歴を見るとバランスがとれなくても海上幕僚監部筆頭部署の防衛部で防衛班長・防衛課長・防衛部長(これらに統合幕僚監部防衛計画部長や防衛課ナンバー2の防衛調整官を加えることがある)を務め上げる3防でも幕僚長に近づくことになる。

 私が予想する伊藤海将は、人事教育部筆頭課の人事補任課長、防衛大学校訓練部長、統合幕僚監部防衛計画部長(同日に内閣官房国家安全保障局へ出向)と大変バランスのとれた経歴となっている。伊藤海将は補給本部長も経験しており、人事・防衛・教育に加えて補給もバッチリである。補給(兵站)の重要性は歴史が証明しており、最近補給職種出身の村川海将が幕僚長に就任したことからも海上自衛隊が補給の重要性の引き上げていると考えて良いだろう。また、内閣官房への出向は大きな加点ポイントと言える。内閣官房は全省庁の司令塔としての役割が期待されていて、各省庁のエース級が出向する。このうち内閣官房国家安全保障局経験者として有名なのは現陸上幕僚長の吉田陸将である。東大出身の吉田陸将が陸幕長に就任したのは、この内閣官房への出向が結構効いたと思う。

 また、アメリカ留学経験も大きい。各幕僚長の主要な任務に国際交流があり、各国軍の参謀総長等と頻繁に会うことになる。現在の海上幕僚長である山村海将が米海軍長官を英語で出迎えている動画が海自twitterに上がっている。他の幕僚長も英語能力があると推測できる(吉田陸幕長は外務省出向経験あり・井筒空幕長はアメリカ留学経験あり)ことから幕僚長になるための必要条件として英語能力はあると考えられる。その点伊藤海将コロンビア大学院留学、アメリカ中央軍連絡官、統合幕僚監部防衛交流班長を歴任していることから、英語能力に関して申し分ない。

 そして、伊藤海将の経歴の中で最も目を惹くのは第151連合任務部隊司令官である。第151連合任務部隊はソマリア沖の海賊対処行動を任務とする部隊であるが、これは日本単体の部隊ではなく多国籍部隊である。その多国籍実働部隊の司令官に日本の自衛官で初めて就任したのが伊藤海将である。後が続くためにも特に最初の人は失敗できない。だから当時の海上自衛隊で最も優秀な自衛官を配置したと考えれる。そのようなことも伊藤海将を推す理由である。

 ③に関して:先ほど②の最後で挙げた第151連合任務部隊司令官就任に際して記者対応した動画がANNからYouTubeに上がっている。ここでは素敵な笑顔で上品かつ余裕のある対応を見せている。ここでの立ち居振舞いを見るだけで、惹きつけられるものが感じられるのではないだろうか。少なくとも私は惹かれた。②で述べたように幕僚長の主要な任務の1つは国際交流である。各国制服組トップと会談する時、印象の良い方が好ましいに決まっている。そのように考え、伊藤海将を推すわけである。

 伊藤海将は現在舞鶴地方総監である。舞鶴地方総監から直接海上幕僚長に上がった例は無いと思うが、同じ指定職3号の海上幕僚副長から海上幕僚長に就任することは良くあることなので、海上幕僚副長と同格とみなせばあり得なくはない。もし、統合幕僚副長のポストがこの冬に空から海へ切り替わったら、統合幕僚副長へ異動して、将来の統合幕僚長としての経験を積んでから海上幕僚長に就任する可能性が考えられる。舞鶴地方総監から直接上がるか統合幕僚副長を間に挟み込むかは、①で述べた統合幕僚長の交代時期によることになる。もし、交代時期が~2022年春だとすれば、統合幕僚副長に就任して3か月以内で次に交代ということになり忙しいので地方総監からそのまま上がることになる。もし、交代時期が2022年夏~だとすれば、統合幕僚副長等他の役職で十分経験を積めるので、間に挟み込むだろう。