【コラム】自衛隊員の扱われ方

 日増しに寒くなってきた今日この頃、会社の忙しさや気温の変化に対応できずに病気を患ってしまったことで、当ブログの更新が大分遅れてしまった。更新を待ちわびてくださった方々に対して、悔恨の念を抱いている。

 

 前回の記事から今日までに自衛隊の人事に関して様々な出来事があったが、特筆すべきなのは統合幕僚長の人事が陸空海ローテーションの慣例(統合幕僚会議議長の頃から考えると陸→陸もあり堂々と慣例と呼べるほどのものではない)を破ったことと、統合幕僚長としては初の一般大学(ただし東大)卒業者であったことだろう。山崎前統合幕僚長が長らく統合幕僚長の任に当たられており、不思議に思っていたがやっとその理由が分かったものだ。河野元統合幕僚長の任期が長くなったのは、安倍総理(当時)の信頼が厚かったことの他に、統合幕僚長予定者であった岡部陸上幕僚長イラク及び南スーダンへの海外派遣行動に関する日報問題で責任をとらされ辞任したことが大きいと考えている。山崎統幕長の時はそのような問題が無かったので何故だろうと訝っていた。山崎前統合幕僚長はロシア・ウクライナ紛争に応じてNATOとの連携に力を注がれていたため、関係構築の最中に辞することは難しかったと考えることもできるが、吉田陸上幕僚長(当時、30期相当)を統合幕僚長に登用することで、井筒航空幕僚長(当時、30期)が直ぐに勇退することを防いだという見方ができる。人事に関しては今月末くらいに大きく動くはずであるが、今回の予想は見送る。というのも、最近になって自衛隊がというよりも国家が、それに使え奉っている公務員に対して粗雑に扱っており、組織にとって最も大切な「人」という資産(主権者たる国民でもある)を、代えが利くモノであるかのように扱っているのではないかという疑念が生じ、人事予想を楽しむ気持ちになれないからである。本当は新設される統合司令官について、考えたりしたかったのだけれども。

 

 一昨日、こんな記事が出た(以下リンク先参照)。

 自衛隊官舎に関する記事であるが、とても人に対する扱い方ではない。家畜だと思っているのではないか、とすら思えてきた。自衛隊以外のいわゆる一般職公務員を想定したと思える記事が見つかったが、エアコン無し、トイレの換気扇無しという酷いものだった(以下リンク先参照)。

 自衛隊以外の公務員ですらこういう状況なのだから、それよりもタフに思われている自衛隊員はどのように扱われているか想像に難くない。そこで「防衛大学校 エアコン」「幹部候補生学校 エアコン」で調べてみたが、確定的な記事がみつからなかったため、それらについての言及は避けるが、日中の訓練等で疲れた身体にまともな休息を与えなければいずれ壊れる、という簡単なことがお偉い方や公務員を妬む方々には理解できないのだろう。使えなくなったら代わりを探せば良いというわけではない。一人前の隊員とするべく時間と金を注ぎ込んだわけで、それらが戻ってくるわけではないからである。もちろん、そんな薄情な組織に人は付いてこないだろう。

 

 防衛大学校の等松教授が防大における学問の軽視等を問題提起されたことは記憶に新しいが、学問に励まなければならないのは幹部候補生だけではない。自衛官を含むすべての公務員が、各人の自由ではあるものの、帰宅後に身体を休ませながらその日の反省や翌日以降の予習を行うべきなのは言うまでもない。仮に上記のような環境ならば、学ぶことはおろか、身体を十分に休ませることもままならないだろう。特に自衛官は一部を除いて住む場所が強制されるだろうから、上記記事のような劣悪な環境に押し込めるのは、一種のパワハラであろう。これまで上記記事のような隊舎または官舎に居住する現自衛官に及ぼすデメリットを挙げてきたが、上記のような記事によって自衛官の待遇が明らかになると、将来自衛官になりたいと思う優秀な人的資源が減少するだろう。それは防衛省自衛隊という組織、ひいては日本国家に悪影響を及ぼすのは言うまでもない。防衛費増額が確実視されているが、その配分の優先順位を間違っていないか?そう考える今日この頃である。

次期ナンバー2予想の答え合わせと【コラム】自衛隊における懲戒処分について

 12月13日に、23日付で自衛艦隊司令官に現在海上幕僚副長の職にある齋藤聡海将が就くと発令された。また、陸上総隊司令官、航空総隊司令官人事に動きがないことで、以下の予想が的中したことになった。勇退なさる湯浅海将、今までありがとうございました。

 海上自衛隊は、次期海上幕僚長として王道ルートを通る齋藤海将を見据えていることは確かであるが、その前後のエース(32期伊藤海将・34期福田海将)や準エースの経歴・人格ともに申し分ないため、海上自衛隊トップ層の層の厚さが窺える。

 

 トップ層は大変すばらしいが、その下はどうであろうか。何やらここ数日の当ブログのアクセス数が増えているのは、ナンバー2予想の結果を確かめに来ただけではないような気がする。

 ここ数日に起きた自衛隊に関する出来事と言えば、当時陸上自衛官であった女性に性暴力を働いたとして5人が懲戒免職、女性から被害の訴えを受けたのに調査をしなかった30代の男性自衛官1人を半年の停職処分とした、という大きなニュースであろう。自衛隊はどうなのか分からないが、公務員に懲戒処分を行う場合は、恣意的にならないように、どのような場合にどのような処分をするかある程度決まっている(詳しくは人事院「懲戒処分の指針について」を参照)。それによるとセクシャルハラスメントのうち、強制わいせつ、上司等の利用による性的関係・わいせつな行為に及んだものは免職または停職となっており、このうち重い方が適用されたことになる。一方で調査をしなかった30代の自衛官に対する処分はどうか。これも「懲戒処分の指針について」を参照すると、監督責任のうち、非行の隠蔽、黙認に及んだ者に対しては停職または減給となっており、こちらも重い方が適用されたことになる。しかも懲戒停職6か月というのは懲戒規定や判例上懲戒免職にできない者に対して下される懲戒処分のうち最も重い処分として運用されているような厳しい処分である。具体的には懲戒停職6か月⇒依願退職をさせるというのが実務上の運用だと思う。

 

 ただ、これよりも重く、トリッキーな懲戒処分が海上自衛隊の方で発生した。2019年9月から2021年2月に日常的に「無能だ」「制裁してやる」と暴言を吐いた他、長時間の労働を強要して精神を壊したとして50代の1等海佐を2階級の降格処分とした。また、2020年7月に内部通報があったのに「パワハラは無かった」と報告した当時の上司で現在海将補の自衛官は1階級の降格処分となった。後者は、将官と佐官の定年差により、即日定年退官となった。

 この定年差を利用した退職の要求は、田母神空幕長の時以来であろうか。近年中々聞いたことの無い方法によるものだ。もっとも田母神空幕長の場合は特段悪いことをしたというよりも政治的な意思決定によるものであったが。

 部内の不祥事を握りつぶした上官に対する懲戒処分として、陸上自衛隊の方は実質懲戒免職として運用されている停職6か月を、海上自衛隊の方は1階級降格(&定年退職)を発した。双方を比べた場合、海上自衛隊海将補に対する処分の方が重たいのは、①高い階級に応じた職責を果たさなかったこと、②ひとたび「パワハラは無かった」という調査結果を提出したことで、今後簡単に再調査を行えないようにしたこと、③近年の海上自衛隊の意識変革が考えられる。

 ③の海上自衛隊の意識改革は、「たちかぜ」いじめ事件の反省から海上自衛隊はいじめに対して隊員の意識を変えるような働きかけが上層部からあった。このことは河野統合幕僚長が著書や他のメディアで語っている。加害者を守るような当時の海上自衛隊の行動に疑問を抱いていた河野海将海幕長に就いたあと、各部隊・学校で「一番悪いのはいじめた奴である。次に悪いのは周りで見て見ぬふりをした奴である。いじめた奴も周りで見て見ぬふりをした奴もともに卑怯者である!」と訓示したとのこと(『統合幕僚長 我がリーダーの心得』より)。それ以来、海上幕僚長の申し送り事項として、いじめを行った者と見て見ぬふりをした者に対しては限界MAXの厳しい処分をする旨が盛り込まれたのではないか。そしてその申し送り事項が現在の海幕長である酒井海将の下で発現したものだと推察される。もちろん酒井海幕長の断固たる意志もあるだろう。

 また、パワハラをした者に対して、2階級の降格処分を下したのも素晴らしいと思う。恐らくパワハラをした自衛官は、階級が絶対の自衛隊において、部下に対する優位な立場を利用して、精神や身体を痛めつけたのだろう。そうした者には再度低い立場となってもらって、下の者がどのような状況・心境にあったのかを考えさせる機会を与えた方が罰として適切だと考えるからだ。懲戒免職は裁判沙汰になって難しいし、辞めて考えが変わるかと言えば変わらないだろう。しかし、2階級降格であれば、場合によってはパワハラの被害者よりも下の階級になることから、問題を起こして周りから白い目で見られるという通常起きる現象に加えて、パワハラをした・された双方の立場の逆転でより一層居たたまれなくなるだろう。辞めようと思っても、問題を起こして懲戒戒告以上の懲戒処分を喰らった以上、経歴に傷がついており内容も内容なので、再就職も難しい。是非とも自衛隊に留まって処分を受け入れてもらいたい。

 

 教育とパワハラの境界線は通常の組織であれば、受け手の印象によるだろう。しかし、服務の宣誓にあるように「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め」る自衛官は、通常の国民が拒絶するような命令でも国民のために受け入れて実行する必要がある。そこで、如何なる命令でも割り切って行動するために自分の中のスイッチをオンにできる身体・脳に改造しないといけない。

 ただし、そのような指導はまだスイッチが確立されていない防衛大や幹部候補生学校学生までに留めておく必要がある。各自にスイッチが確立された幹部に対して、理不尽な指導をしても、もう既にあるスイッチを新たに得られるというメリットも無く、ただ理不尽なだけである。スイッチに接触不良を来たして問題を起こすようになった自衛官に、教育内容を思い出させるために、たまに理不尽な指導をするのは意味があるかもしれないが、やはり教育機関の外では実務で手一杯なので、最小限に留めておくのが無難である。

 今回は幹部学校だから教育機関ではないか!という意見もあるかもしれないが、幹部学校は幹部候補生学校と違って、幹部の中の幹部を育成する機関である。したがって既にスイッチが確立されている者ばかりなので、理不尽な指導は必要ない。恐らく教育だけでなく、研究をする機関でもあろうから、逆に少しのびのびとやらせた方が良いかもしれない。そのような場所で理不尽な指導により優秀な幹部を使い潰したのだから組織に対する責任も大きいものとなったのだろう。

 

 リーダー論というのは人それぞれで、有事であったり平時であったりその時々で求められる像は違ってくるが、私自身が時々思い出すようにしているのは河野統合幕僚長がゼークトの言葉を引用して挙げた「いつも上機嫌でいること」だ。確かに河野統合幕僚長自衛官としては珍しいくらいにニコニコしている。

 河野統合幕僚長防衛大学校時代に上級生からニヤニヤするな!と指導を受けたり、防衛部長時代のあたご衝突事件の記者会見で一瞬笑ったところを切り取られてバッシングされたことにより、国内では笑っている写真は少ないが、海外では余裕のある笑顔で国際交流を行っている。常に張り詰めた緊張感が漂う組織では息が苦しくなるため、トップがそれを和らげるような雰囲気を作り出すということも求められていると思う。もちろん、ニコニコせずとも、たまに笑わせるようなことを言ったりするというのも手で、自衛官はそちらの方が多いだろうから、そのように緩急をつけるのが良いだろう。

 海上自衛隊には笑顔が固くない指揮官が多いような気がする。上で挙げた今月勇退される湯浅海将も笑顔の似合う指揮官だと思う。これは艦長から下士官まで艦という閉鎖空間で長期間任務をともにして、外洋に出れば国際交流があり得るからだと思う。だからこそ、今回幹部の海上自衛官が降格されるようなパワハラを働いたというニュースに驚いた。もしかすれば、艦の適正が無く、ずっと陸でいたのかもしれないが、有事になれば組織が一丸となって動く必要が出てくる。台湾有事が囁かれる中、自衛隊が必要なときに組織として機能することを願う。

次期ナンバー2予想

 そろそろ夏の将官人事発令が近づいてきた。幕僚長人事は予想したばかりで、この夏は動きが無さそうなので、各自衛隊ナンバー2の予想をする。

 

 まず、航空自衛隊のナンバー2である航空総隊司令官の予想であるが、これは前々から言及しているように、井筒航空幕僚長統合幕僚長就任が控えているため、動かさないと思われる。つまり、内倉空将が留任すると予想する。31期の内倉空将、33期の森田空将、35期の亀岡空将補がそれぞれ3防(防衛部長等の防衛部主要ポストを3回経験すること)で経歴的にかなり強く、上記各人を組織として幕僚長予定者に据えていると思うので、空幕長最有力ポストを32期にずらすと以降空幕長の期別が偶数にずれて組織として育ててきた人材を有効に活用できなくなるからというのもある。もちろん3防等の主要ポストに配属されてきたのは、そのポストを熟せるだけの能力が本人に備わっていることが大きいが。

 

 次に、陸上自衛隊のナンバー2である陸上総隊司令官の予想をする。31期エースの前田陸将か、32期エースの梶原陸将の2択だと思うが、どちらに傾くのかは吉田陸幕長の任期次第だと思う。経歴的にはどちらも陸幕長コースで(留学の経験あり・過去の陸幕長が通ってきた主要な役職の経験あり)、YouTubeでそれぞれの名前を検索してお話されているところを拝見すると大組織のトップが纏う風格をどちらからも感じられた(前田陸将は岡部元陸幕長、梶原陸将は山崎統幕長と似た雰囲気がする)からである。私は、31期の前田陸将が陸幕長になるという予想をしており、今も変わっていないので前田陸将が留任すると思う。つい最近も前田司令官自らが降下訓練に参加しており、健康問題も浮上する心配が無いのも理由に含まれる。

 

 最後に、海上自衛隊のナンバー2である自衛艦隊司令官の予想をする。現在の司令官は30期エースの湯浅海将であるが、31期から酒井海将海幕長となったため、事実上勇退が決定している。ということは32期エースの伊藤海将が就くのかということだが、伊藤海将はこの春に呉地方総監に就いたばかりなので考えにくい。32期準エースの二川海将も今月初に統合幕僚学校長に就いたので同様に考えにくい。32期が無理なら、33期エースの齋藤海将が就くことが想定される。齋藤海将海幕長の王道ルート(防衛部長→護衛艦隊司令官→幕僚副長)を通ってきているので、十分あり得る・・・が、航空自衛隊のナンバー2が31期、陸上自衛隊のナンバー2が31期(次いで32期)と予想している中、海上自衛隊のナンバー2が33期から選ばれるのは流石に若すぎるような気がする。しかし、航空自衛隊陸上自衛隊は直後に幕僚長が勇退することを想定しているため、海上自衛隊とは状況が異なる。そのことを考慮するとやはり齋藤海将が就任すると予想する。

 

 当ブログの予想

・陸上総隊司令

 本命:前田陸将(留任) 対抗:梶原陸将

自衛艦隊司令官

 本命:齋藤海将 対抗:真殿海将 大穴:湯浅海将(留任)、伊藤海将

・航空総隊司令

 大本命:内倉空将(留任) 大穴:阿部空将、鈴木空将

【コラム】伊藤弘呉地方総監のご発言について

 私が以前から次期海上幕僚長予想に勝手ながらも名を挙げている伊藤弘海将が、7月4日の記者会見で述べた「(防衛費増額を)もろ手を挙げて無条件に喜べるかというと、全くそういう気持ちになれない」というご発言に特定野党が色めき立っている。わざわざ特定野党やその支持者のTwitterアカウントをここでリンクを示して宣伝するのもどうかと思うのでしないが、彼らの意見を要約すると「現場の将官がまともなことを言っているのに、政府や自民党はこれを無視して防衛費を増やすのか!」というものである。個人的な理由から記事の更新を止めていたが、何やら話が大きくなってきたので緊急的に記事を執筆する。

mainichi.jp

 筆者の立場を先に述べるが、私は防衛費増額にも賛成だし、伊藤海将の懸念も理解できる。扇動的なタイトルのおかげで伊藤海将は左翼自衛官のように勘違いされかねないが、伊藤海将が考えているのは別のところである。そもそも私が伊藤海将を次期海幕長と予想した理由でもあるが、伊藤海将は補給本部長を経験しており、兵站の重要性を理解なさっている。河野前統合幕僚長(元海幕長)もプライムニュース等で日本の継戦能力が低いことを嘆いておられる(陸海空各自衛隊出身の3統幕長が揃った回で「防衛の根本的強化に必要なもの」を問われた際、陸出身の折木元統幕長と空出身の岩崎元統幕長は1番目に新領域を挙げた一方で、海出身の河野前統幕長は1番目に弾薬・ミサイル・魚雷・燃料・部品・修理整備・生活環境等を含めた継戦能力を挙げたのが特に印象的だ)。元海自幹部YouTuberのオオカミ少佐も浮桟橋を例に自衛隊の設備が古くなっておりその能力を十分に発揮できない現状を紹介していた。このように、海上自衛隊の中にはもっと兵站に予算をつけるべきだという考え方が広がっているのだろう。そのような状況において、海自兵站部門の責任者を経験した伊藤海将の「極論ですけど、ミサイルや大砲の弾をたくさん仮に買ったとしても、それを撃つプラットフォームである船の手入れを怠ったら海の上に出て行けない。目を惹かれる装備とか技術とかいろいろあるんですけれど、もっと地に足を着いたメンテナンスですとかロジスティクス、ここにももっと注目してほしい」というご発言に繋がるのだと見れば自然に受け止めることができるかもしれない。

 このほかに、伊藤総監は現任地のHPでも前任地のHPでも人口減少社会に警鐘を鳴らしている。これは、日本人がいなくなったら日本そのものが無くなる、日本における日本人の人口よりも外国人の人口が上回れば国を乗っ取られるというような究極的な話というよりも、過疎が進む地方から徐々に伝統が失われる、自衛官になる人(=国を護る人)が必要な人員を下回るという目の前の危機に対するものであるように思う。つまり、少子化対策も安全保障の一部だとお考えなのだろう。それが今回の「社会保障費にお金が必要であるという傾向に全く歯止めがかかっていないわけです」に繋がっていると思われる。

 少子化対策兵站の充実という目の前の課題を前にすると、まずそれらを解決した上で新しい兵器を買ってほしいというのが現場の本音なのかもしれない。それを解決するための財政的な制約は、①プライマリーバランス、②債務対GDP比、③供給能力(潜在GDP)+α、とマクロ経済思想によってさまざまである。財務省や岸田政権はプライマリーバランス2025年度黒字化を謳っており①である。一方で、MMT派は③を主張している。③なら今すぐに、①や②なら日本経済(GDP)が拡大した時に、それぞれ防衛費の増額は可能となる。ただしどの場合でも、政府支出の上限は存在するので、優先順位が重要となる。加えて、単に防衛費を増額させるにしても、増額分が丸々アメリカが作る兵器の購入費用に充てられれば、長期的に見て日本にメリットは無い。そのような未来が視えると、「(防衛費増額を)もろ手を挙げて無条件に喜べるかというと、全くそういう気持ちになれない」というお言葉が出るのも納得である。

 しかし、私は納得しても、最新兵器にお金を優先的に配分することを主張する派閥や、今回の記事の見出しにつられて伊藤総監を反政府認定した勢力からの誹りは免れないだろう。伊藤総監はそれによる不利益を考慮してもなお、海上自衛隊を含む現在の日本国が持つ弱点を補強するべく指摘したのだと思う。

 ここで人事の話になるが、伊藤海将は32期である。現在の海幕長が31期であり、だいたい2年務めることを考慮すると、31+2=33期から次期海幕長に選ばれるのが順当だ。33期から選ばれるとすれば、33期筆頭の齋藤海将である。齋藤海将は現在中央で海幕副長の職にあり、最有力候補となっている。私は31期酒井海将が早くに海幕長に上がったことを考慮して伊藤海将もまだ候補に入っていると思うが、仮に33期から選ばれたり、その前に勇退するようなこととなれば、それが通常の人事であったとしても特定勢力は「政府の方針に逆らった自衛官を更迭した!」と騒ぎ立てるかもしれない。逆に海幕長に就いたとしても右から「防衛費増額に反対した自衛官をトップに据えるのか!」と騒がれるだろうし、本当に面倒だと思う。それも発言の一部を見出しに持ってきて煽ったマスコミと、記事を全文読まない読者のせいだと思う。今後の対応・対策としては、幕僚長や総監の会見は広報室が録画してマスコミに先んじてネット公開すること等が考えられる。

次期海上幕僚長予想(答え合わせ)

 

jinjiyosou.hatenablog.jp

 上記記事において私は、次期海上幕僚長に32期から伊藤弘海将が命じられると予想していた。結果は3月11日に、30日付で勇退なさる山村浩海上幕僚長の後任に31期から酒井良海将を充てることが閣議で承認され、予想は外れた。

 私としては予想する際に、酒井海将も考慮に入れた。それは酒井海将海将に昇任してから、他の1選抜と比べてかなり早い昇進・異動を繰り返していたからである。また、ハーバード大学アメリカ海大指揮幕僚課程を経験して幕僚長に求められる英語力をクリアしていると十分に考えられるためである。特に海将昇任後の昇進が早い点に関しては、異様であった。部長級の中で海上幕僚長の候補者筆頭格は防衛部長(統合幕僚監部においては防衛計画部長)であるが、その後職は護衛艦隊司令官(飛行機乗りの場合は航空集団司令官・教育航空集団司令官)が通常である。しかし、酒井海将は防衛部長の後にそれよりも位の高い、大湊地方総監に補職されたのである。その後、さらに位の高いポストに1年毎に昇進・異動をし続けた。最終的に自衛艦隊司令官と給料上は同等の横須賀地方総監に任じられていた。このようなことが過去において無かったわけではない。近年では武居元海幕長も似たような経歴を辿っている(武居元海幕長の場合は大湊地方総監の後に給料上同格の海上幕僚副長に一旦横滑りしている点が異なる)。だが人事運用上は可能であっても頻繁に使用される手ではないことは確かである。

 人事的に海上自衛隊としては次期海幕長に酒井海将を見据えた動きをしていたにもかかわらず、私はこのまま人事ローテーション通り次期統合幕僚長に井筒空将が就くことを予想しているため、組織的に統合幕僚長の1つ下のポストである海上幕僚長に、井筒空将よりも年齢が高い酒井海将が内定するとは思えなかった。この点、確かに山崎統合幕僚長の下で、山崎陸将よりも年齢が高い湯浅陸将(当時)が陸上幕僚長に任命されたことがあった。私にとって、これは例外であって期別と年齢は同等に管理されると思っていたが、実態は期別の方が年齢よりも組織にとっては重要なものであったようだ。

 統合幕僚長ポストの人事ローテーションで言えば、次々期統合幕僚長海上自衛隊から輩出することになっている。この点に関しては上記予想記事において言及した。統合幕僚長の定年が62歳であることを考慮すると、井筒統幕長(予定)のあとに酒井海幕長(予定)が就くとは考えられないため、井筒統幕長(予定)の任期前半で海上自衛隊はその次の海幕長を選んでおく必要がある。ということは酒井海幕長の期間は昔のように2年弱くらいと現在よりも短いものとなる可能性が結構高い。そうならば、私の予想していた伊藤海将が時期はズレるものの海幕長の任に就くことも可能性として消滅したわけではない。

 何はともあれ、酒井海将海上幕僚長内定をお祝いし、山村海幕長の長年にわたる我が国へのご奉仕に感謝を申し上げて本記事を結ぶ。

【コラム】各自衛隊の動向~3幕長の挨拶より~

 遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 各自衛隊のHP等を見ると、各自衛隊幕僚長の新年の挨拶が掲載されている。この挨拶文から今年の具体的な抱負が書かれてある部分を抜粋して自衛隊の動向を紹介したい。なお、航空幕僚長の新年の挨拶に関しては、私が確認し損ねたので、元旦から1か月後の挨拶文となる。

 

 ○陸上幕僚長年頭挨拶の抜粋

 令和4年は、我が国を取り巻く戦略環境が加速度的に厳しさを増す中、2035年頃までの我が国の安全を担保するため、国家安全保障戦略、防衛大綱及び中期防の見直しが行われる、分水嶺となる年です。
 陸上自衛隊としても、引き続き「変革の加速」、「実力の進化」及び「信頼の増進」を合言葉に、大胆かつ柔軟な発想により、統合運用の下、我が国の防衛力強化に資するイノベーションを進めて参ります。

 

 ○海上幕僚長年頭挨拶の抜粋

 令和4年においても、海上自衛隊は引き続き日本周辺海空域の警戒監視に万全を期すとともに、米海軍と緊密に連携して日米同盟の抑止力・対処力の強化に努めてまいります。また、世界の友好国海軍との交流を重ね、相互理解を一層深化させることにより「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指します。さらに、本年は海上自衛隊創設70周年となりますことから、各種イベントを企画していきますので、どうぞご期待ください。

 

 ○航空幕僚長1月31日挨拶の抜粋

 本年も早1か月が過ぎましたが、航空自衛隊における私の本年の抱負を、寅年にかけて3つの「トラ」として紹介します。
    1つ目は、内外の厳しい情勢に果敢に挑戦するTry(トライ)、2つ目は、激しく変化する状況に対応するための私たち自身の変革、言うなれば進化するTransformation(トランスフォーメーション) 、そして3つ目は、複雑な情勢下であるがゆえに、風通しの良い組織をつくり、対外的には適時適切に説明責任を果たすTransparency(トランスペアレンシー)です。
    これらをTriangle(トライアングル)の頂点として、バランスよく推進していきたいと考えています。

 

 各自幕僚長のあいさつを並べてみると、各自衛隊・幕僚長の特色があって面白い。

 陸上自衛隊は、中期防等を念頭に置きながら、防衛力強化を謳っている。中期防等は、小野寺元防衛大臣曰く、「防衛費にキャップ(上限)をかける形」となるもので、これを基に各年の予算が決まると言っても良い代物である。だからこそ、中期防の改定作業はもう少し財政に積極的な内閣の下で行われてほしかった。一部から財務省内閣と呼ばれる緊縮的な内閣が、きちんとした国家戦略を意識して作成するのか少々不安に思う処である。

 海上自衛隊は海の外交官らしく、「自由で開かれたインド太平洋」の実現のために防衛交流を深化させることを説いている。また、海上自衛隊創設70周年のイベントを宣伝しているのが面白い。近年、海上自衛隊には人が集まりにくいという噂がある。艦という外界から途絶された環境に、1日中スマホをいじることに慣れた人間が行こうとは思わないからだろうか。そんな海上自衛隊でも今やYouTubeでオオカミ少佐など元海上自衛隊員が良いところ(や正直に悪いところ)を紹介しているので、そのようなチャンネルを見たり、幕僚長が紹介するようなイベントに参加してみたりすると印象が変わるかもしれない。

 航空自衛隊は、本年の干支にかけて内部組織の変革を試みようとしている。既に井筒幕長は、日経ビジネスにおいて自身の組織観を述べられている。今年はそれを実践に移そうと努力されるのだろう。詳しい内容は以下のURLから飛んで各自で読んでほしい。

上司の指示が少ない組織ほど柔軟な判断ができる理由:日経ビジネス電子版

「昭和型組織」だと、もう危機は乗り越えられない理由:日経ビジネス電子版

 今年も各自衛隊には我が国の守護をお願いして、本コラムを〆る。

次期情報本部長予想(答え合わせ)

 上記記事において、次期情報本部長は、航空自衛隊の32期1選抜組から選ばれると予想した。

 結果は12/10に、航空自衛隊32期の尾崎義典空将が次期情報本部長に命じられた。私が予想した2人ではなかったが、航空自衛隊員であることと32期から選ばれたことを的中させたので、及第点かと思う。

 答えが分かってから、尾崎空将の経歴を見ると確かに情報本部長に相応しいと感じる(以下抜粋)。

・平成12年1月~平成14年8月  米空軍士官学校交換幹部

・平成17年8月~平成19年4月  情報本部

・平成19年8月~平成20年6月  航空幕僚監部情報課付

・平成20年6月~平成23年12月 米国防衛駐在官

・平成25年4月~平成26年8月  航空幕僚監部情報課長

 常人ではこなせないポストばかりである(正直役職名を書いているだけで圧を感じる)。

 そして今回の人事で現情報本部長の納富中陸将は退役されることが決まった。長い間お疲れさまでした。そして私たちを守ってくださりありがとうございました。